海外赴任でも英語プレゼンに1ミリもビビらない方法

英語を使う仕事、特に海外赴任が決まり「英語プレゼンをしなければならない」という場面は、多くの人にとって大きなプレッシャーだ。しかし、一般的にとられがちな準備方法が、実は意外な落とし穴になっていることも少なくない。

14年間の英語研修会社運営やTEDxプレゼン(11万回再生)など豊富な経験を持つ竹末研一氏(TORAEL 代表取締役)に、「英語プレゼン対策」でよくある失敗例と、それを克服するための具体的な方法について話を聞いた。

TORAEL 代表取締役 竹末研一
幼少期を英語、アラビア語、タイ語、中国語の多言語環境で過ごす。日本航空の技術部門に勤務後、独立。英語の仕組みを「見える化」した「パズル式英語」の構文解析手法を開発し、ビジネスパーソン向けにシンプルで効率的な英語習得手法を提供している。(これまでの特訓受講生は3000名/短期講座受講生は10000人)

◆英語プレゼンにありがちな失敗は「英語の丸暗記」
今の時代はプレゼンの教科書を読まなくてもChat GPTに聞けば英語表現も教えてくれる。

英語プレゼンの経験が少ない人は、Chat GPTや書籍にあるフレームワークや英語表現を参考にして、事前準備するときスライドにすべてを書き出し、読み上げるという方法を選びがちだ。

しかし、竹末氏によると、これは「英語プレゼンで最も失敗しやすい方法」だと話す。

「日本語のプレゼン内容を翻訳し、棒読みしたり、質問に答えられずに混乱するケースが多いです。準備不足で原稿を読み上げると、緊張で途中でどこを読んでいるか分からなくなったり、原稿とスライド内容の不一致に気づかず混乱したりすることもあります。

最悪なケースは、質問を受けたときに内容が理解できない、または答えられない状況に陥ってしまうことです」

英語力に不安があると、「間違えたくない」という心理から全ての内容を書き出し、文章の丸暗記に頼りたくなってしまう。だがこのやり方を続けていたら、本番でのアドリブ対応力が養われない。

◆日本語と英語の構造の違いを理解することが重要

竹末氏はこのような状況に陥ってしまう根本原因を「日本語と英語の構造の違いや、英語で即応するための基礎が整っていないこと」と分析している。では、どのように学べばスムーズに英語でプレゼンができるようになるのだろうか。

「ポイントは、プレゼン内容を『話す項目ごとに構造化して理解すること』です。丸暗記ではなく、自分が話したい項目についてマインドマップなどにまとめて、項目ごとに関連するキーワードや具体例を添えて、2〜3分程度で自然に話せるように準備します。これにより、途中で内容を忘れても、スライドやキーワードを見れば話を続けることができ、プレゼンの流れも途切れません。

また、あらかじめ想定質問に対する返答も練習しておくと安心だ。特に、ネイティブスピーカーと実践的な練習をすることで、よりリアルな会話が想定できる。

「英語の文法構造を頭に入れて順序通りに再現することが大事です。例えば、『I read the newspaper yesterday』を理解するとき、『昨日、新聞を読んだ』と、義務教育で学んだように後ろから訳すのでは、瞬時に理解するのはなかなか難しい。『私は/読んだ/新聞を/昨日』と順序立てて即座に理解できるようになることがプレゼン成功のカギとなります」

つまり、Chat GPTやDeepLから出てきた英文を練習する際に、丸暗記するのではなく、出てきた英文が どのような構造になっているのかを理解して、多少単語が違っていたとしても、前から順番に概ね再現できる練習をするのです。たとえば

◆この英文覚えて話せますか?

We started working about eight weeks ago, and the question we asked was: ‘our customers want to know who is Apple and what is it that we stand for…where do we fit in this world?
Steve Jobs’ marketing strategy, 1997

Chat GPTなどで生成された英文がモヤモヤして覚えられないようであれば、練習する前に英文の構造をパズルのように「見える化」します。

We started working about eight weeks ago, and the question we asked was: ‘our customers want to know who is Apple and what is it that we stand forwhere do we fit in this world?

そして同じ順番で『私は/読んだ/新聞を/昨日』のような読み下し訳をつくります。

私達が仕事を始めたのは8週間前のことだ。そして私達が尋ねた質問は「顧客が知りたがっているアップルは何者何なのか私達が目指しているのはどんな役割を果たせるのか?この世界で

このように構造を理解した上で、再現する練習をします。この例では、話す項目start, the question, who, what, where などメモしておき、メモを見て練習します。多少単語が違っていても、単語やフレーズが抜けていても構いません。

発声例:
We started cooperating, and the problem we asked was: ‘our customers want to know who is Apple and what is it that we aim forwhere do we fit in this world?

相違点は修正して精度を上げていきます。このように練習すればプレゼン本番で単語を忘れても、言い換えたり、省略したりして切り抜けられます。

また構造を理解した上で、再現する練習をしていくと、同じパターンが多数あることに気づきます。同じパターンは練習が省略できますので、加速的に練習が楽になっていきます。

そのうちに、練習したパターンの一つを使ってネイティブが話していることに気づくことでしょう。この頃になると、自分が言いたいことを組み立てて質疑応答もできるようになるでしょう。

◆毎日30分、3カ月集中して学習すると成果が見えてくる

では英語プレゼン力をつけるために、どれくらいの期間が必要なのだろうか。竹末氏は「毎日30分から1時間、3ヶ月程度の集中学習で十分成果が出ます」と話す。

「ただし、学ぶ範囲を絞ることが重要です。様々な話題で練習を繰り返すよりも、自分が話す予定のプレゼン内容や関連分野の会話に集中することで効率よく上達できるからです。日々30分〜1時間の練習を3ヶ月継続すれば、多くの人が成果を実感できるでしょう。

なお、基礎力としてアメリカのニュースサイト『CNN.com』や有力紙『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』レベルの英文を毎分140単語程度で後戻りせず理解できる力があれば、プレゼン練習もかなり楽になります。」

トラエルが提供している「パズル式英語特訓」の受講生には、たった3ヶ月で英語力が一気にアップした人が少なくない。

「IT系商社のマネージャーがイスラエルのエンジニアと英語で交渉し契約締結に至ったり、マーケティングコンサルタントがアメリカで英語プレゼンを成功させたりと、英語プレゼンの場で自信を持って力を発揮しています」

◆自力でできる5つのプレゼン準備テクニック

では、英語のプレゼンが決まったとき、まずはどのようなことから始めたらいいのか。自分でもできる5つのポイントを聞いた。

■まずは「英語原稿の準備」
日本語で書いたものをDeepLやChatGPTで英訳し、英文添削ツール「Grammarly(グラマリー)」で文法を確認する。
「可能であれば、ネイティブに内容が合っているかチェックしてもらうと、より安心です」

■2つ目は「練習」
準備したプレゼン内容をスムーズに話せるまで繰り返し練習する。「内容を丸暗記するのではなく、構造を理解しながら、文の切れ目や項目ごとに話せるようにすることがポイントです」

■3つ目は「チェックリストを作成」
発音チェックや暗記状況を管理できるチェックリストを作成し、進捗を管理しながら完成度を上げていく。

■4つ目は、「録音し、その内容をフィードバック」
「自分のプレゼン内容を録音し、自身でフィードバックしながらブラッシュアップしていきます」

■最後は「想定問答を準備」
想定される質問とその答えをネイティブと話し合い、スムーズに答えられるように準備する。

「丸暗記では対応が難しいため、英語の仕組みを理解することが大切です。さらに話す分野と内容を絞り、集中的に練習していきます。このように練習すれば状況に応じて柔軟に話せるスキルを養うことも容易になってきます」